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看護師養成の現場から・2012年夏
 八月の酷暑の中、東北、北陸地方を仕事で行脚してきた。
 学生向け教育プログラムのインストラクター養成の講師として看護師系の専
門学校の先生に指導する機会を多く持った。ご存じのように、看護師は引く手
あまた、完全な売り手市場で、関係している青森の短期大学でも看護系は就職
に困ることはないと聞いている。

 研修会に参加してくる先生方と面談や雑談を通じて話を聞くと、最近の学生
の意識の変化、安直な入学意思に困惑しているという。「看護師になりたい」
「医療従事者として貢献したい」と強い意志で入学してくるのは半分くらい、
後は「就職に困らない」「一生ものの資格」という考えが非常に多くなってい
るという。

 それも、本人がそう考えて選択するのも少数で、親がそう言うから…という
理由で入学してくる学生も多いそうである。加えて、今は先物買いよろしく、
1年生から月5万円の奨学金を支給する病院もあり(卒業後、3年間その病院で
働くのが条件、返済義務は生じない)、その奨学金目当ての学生もいるという。

 確かに病院にしてみれば、慢性的な人手不足、看護師の数=ベッド数みたい
なものだから、看護師数=儲けでもある。年間60万円の奨学金(短大2年で120
万円)は安いもの。親から見れば、授業料の半分近くを面倒みてくれて、就職
先も1年生の時点で決まるのだから、ありがたいことである。

 だからこそ、看護師養成の現場は困難を極める。高い使命感や強い意欲に支
えられて勉学に励み見事、国家試験に合格し入職する人は半分、後の半分は打
算と妥協のうえに成り立っているのでは気勢が上がるはずがない。

 専門学校、短期大学は2年間で学ぶことが圧縮されているから、ほとんど遊
ぶ時間はなく勉強漬けだという。学生も大変だ。高い志と地道な努力に支えら
れて、やっと合格にたどり着く。そうでない学生は、先生方にあの手この手で
学習意欲をかき立てても、元々、看護師になりたくて入学してきたわけではな
いから見切りも早い。退学者も多いという。

 『白衣の天使』『現代のナイチンゲール』というすばらしい存在もやはり大
変なものであると、改めて考えさせられた夏である。


             (2012/09/17 人材開発メールニュース第695号掲載)


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