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知っていることの減退は恐い
 皆様、暑中お見舞い申し上げます。

 ロジカルシンキング、論理的思考をテーマとした研修を担当することが時に
ある。「お前が本当に論理的か」と問われるといささか心許ないが、それでも
論理的に考えようと意識はしているし、常に根拠・証拠、論拠を基に話そう、
書こうとかなり“考えて”仕事に当たっているつもりである。

 一方、多くの場合、本当に論理的に日々、仕事をしているかと見ていると、
決してそうでないことがわかる。思いこみや決めつけ、過去の経験則からの成
功体験依存、惰性による思考停止も多いし、そもそもPCにしてもIT技術にして
も、効率化という名の元に“考えなくていい”生活を作り出している気がして
ならない。ワープロソフトの普及による漢字が書けないのもその一つではない
か。

 最近、スマートフォンのCMを見ていると、「渋谷区の面積は?」「○○は?」
とスマホに向かって問いかけると答えてくれるやつ、確かに便利だ。通訳まで
してくれる。そこから恋も生まれそうだ。もちろん、スマホに向かって「○○
は?」と聞く行為は、調査する、好奇心から関心を持って調べる、情報収集す
る行為ともいえるので調べない人よりはましかもしれない。

 しかし、渋谷区の面積を直接、知ることも大切だが、どのようなサイトやデ
ータに接すれば、面積が調べられるのか、23区の他の区はどのくらいの面積が
あって、渋谷区は何番目なのかといった、周辺知識や関連知識、網羅的・体系
的な知識は得られることはないだろう。直接の答えは得られても、視野視線、
思考の広がりは限定されてしまう(そもそもそこに関心が行かない)。

 知っていること、知らないこと、知りたいことの三要素が知に不可欠であれ
ば、知っていることの減退が恐い。

 いまや、IT技術は私たちの生活には欠かせないものだし、ライフスタイルま
で劇的に変えてしまう影響力がある。あまりにも依存的だと、逆に、人間の持
つ本来駆使すべき様々な能力を衰退させ、ときには喪失させてしまう可能性も
ある。現代の『進化論』なのかもしれない。

 猛暑の中で、アナログ親父の戯言でした。


             (2012/07/16 人材開発メールニュース第687号掲載)


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