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新入社員育成の現場から・2012年夏
 今年の新入社員の大半が導入研修を終えて現場に仮配属、もしくは本配属と
なる時期であろう。或いは現場実習か。

 とある大手銀行の窓口、取引先企業から頼まれて銀行口座残高証明を取りに
きた。見るからに新入社員と思える人と、少し年上の落ち着いた雰囲気の二人
の総合職とおぼしき女性行員がカウンターに出てきた。どうやら新人に事務手
続きの体験をさせ、先輩がフォローのためにそばに付き添っているようである。

 書類を渡す。その書類を行内用の書類に転記する作業に入る。当該企業の社
名は「ラ○○ス」、若い方の女性が転記している書類を見ると「ライセンス」
と書いている。思わず「社名、間違えているよ」というと、最初キョトンとし
た表情、そして何度か確認して「ライセンスなら漫才コンビですよね」とあっ
けらかんと笑う。私と先輩社員の顔が硬直する。先輩、頭を下げ詫びる。本人
からは社名を間違えるという大きなミスに動じることなく、謝りもせずそのま
ま作業続行。

 次に代理人の氏名(=私)を転記する。「加藤…」と書き始める。「すいま
せん。佐藤ですが…」と言うと、「あっ、そうでしたね」とまたもアッケラカ
ンと対応。書き直しに入る。「佐藤孝」で書き終え書類を整える。慌てて「す
みません。佐藤孝夫ですが…」と言うと、まじまじと私が書いた用紙を見て、
「あっ、そうですね。読みにくくて」と、書いた私が悪いのか!いくら読みに
くくても、加藤と佐藤は見間違えないだろうと、思わず突っ込もうと思ったが、
隣で先輩が何度も頭を下げる。こちらに向ける顔は申し訳なさそうで、健気な
先輩の顔に免じて許すことにする。

 書類が出来上がり行内手続きで二人とも離席、しばらくして新人だけが「少
々お待ちください」と言いながら帰ってきた。「新人さんですか。慣れました
か」と大人の対応で怒りを抑えて声をかけると、ニコッと笑って「細かい書類
が多くて…苦手なんです」と客を前に本音で話す。オイオイ、誰がこの娘を窓
口に置いた!と叫びたくなる。
 「一枚の書類で随分、時間かかるよね」と時間を気にすると、「上席の判が
必要なんで、それで時間がかかるようです」と、1ヶ月半ばかりなのに、すっ
かり社内用語で話す。その点の適応力はあるようだ。

 しばらくして先輩が書類を持って帰ってくる。度々の失礼を詫びながら書類
を渡される。「あなたが悪いのではないよ。苦労するね」と心で思いつつ、窓
口を後にする。
 一週間後、連絡が来たので残高証明書を受け取りにその銀行にいく。別の行
員が出てきた書類を渡されたが、行内を見渡すと件の先輩行員の忙しそうな執
務中の姿が見える。
 しかし、“あの”新人女性の姿は見あたらなかった。


             (2012/06/18 人材開発メールニュース第683号掲載)


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