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バンデューラの自己効力感
 “あの日”から一年が経ち、思い起こせば昨年の今頃は大震災の被害状況が
次第に明らかになるとともに、避難所生活が始まったばかり、東京電力管内は
計画停電に怯え、ターミナルは薄暗く…本来なら晴れ晴れとした入社式も暗く
沈みがちだったと記憶する。

 そのときから比べれば、六重苦といわれる企業を取り巻く環境もなんのその、
逞しく復活を遂げてきた日本企業の底力を感じる中、今年も新入社員を迎える。
いつも通りとはいかないかもしれないが、少なくとも昨年のような不安の中の
スタートではないと思う。

 これから実社会に羽ばたく若人(言い方が古い)だが、政府が「雇用戦略対
話」という会議で示した調査結果は、由々しき問題だ。それは、大学や専門学
校に進学しても2人に1人は卒業後3年以内に離職したり、無職やアルバイトな
ど非正規雇用にとどまったりしているとの推計である。

 ちなみに、2010年3月卒の大学・専門学校を卒業した約85万人のうち、すぐ
に就職した人は56万9000人、ただ、上記の傾向を当てはめると、就職した人も
19万9000人が3年以内に離職する公算が大きいという。
 卒業時に就職しなかった人やアルバイトなど一時的な仕事に就いた人は14万
人、中途退学した6万7000人を含めると、安定的な仕事に就かなかった人は全
体の52%、40万6000人に上るという。更に、高校から社会に出た人はより厳し
くなり、70%近い人が安定的な職業に就かなかったという。

 私は、大学の授業で「大学卒業以降の人生」はこれまでの進学と違ってエス
カレーターや当然上に行ける階段はないよと、何度でも話す。卒業後は正社員
になって、安定的に働き、安定的な生活を手に入れる、そうした“当たり前の
ような”雇用モデルは今更ながら崩れていることを見せつけられる調査結果だ
といえる。

 このところ、ご存じバンデューラの自己効力感にのめり込んで研究している。
その説によれば、ある努力をすれば、きっと成功するであろう確実な見通しと
しての結果期待と、自分のためなら、この努力はできそうだと思う効力期待の
2つが揃うと意欲が持続されるわけだが、残念ながら、あまりにも外部環境変
化が激しく速い状況下では見通しが立たない、成功イメージも湧かない、努力
する気に起こらない、努力してもしょうがない…指針もモデルもなく、漂うば
かりか。


             (2012/04/02 人材開発メールニュース第673号掲載)


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