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一番最初のお客様の思い出
 日経ビジネスで真っ先に読む大好きなコーナー“敗軍の将、兵を語る”のペ
ージを開いた瞬間、私の手はパタリと止まった。日経ビジネス2010.6.28号、
兵を語る敗軍の将は「今泉」という会社の社長が自己破産を淡々と語っていた。

 「今泉」社と言われても、多くの人はピンとこないと思う。浮き輪やビーチ
ボール、ベビー用のビニールプールなど海水浴関係のビニール製玩具メーカー
である。その「今泉」社は、私が初職の新入社員のとき、飛び込み営業で初め
て仕事をもらった会社であり、駆け出しアドマン第一号クライアントであった
のだ。

 以前、このコラムで初職である広告代理店時代に、外車ディーラーから思い
がけず大きな広告を貰ったことを書いたことがある。その時は私と同じ苗字=
佐藤という名の担当者が定年退職に当たり、「ビジネス界の入れ替わりだ」と
新人の小僧に話してくれたエピソードを紹介したと思う。

 実は、その会社は「子どもの日の広告企画」の広告取りの後日談として獲得
した広告なのだが、この「今泉」社はその企画そのもので出稿してくれた会社
であった。確か、2段1/8程度のスペースだったと思うが、定価30万円ばかりの
広告で、それを半額まで値引きしてプラス制作費を実費程度いただいての契約、
その契約まで飛び込みからしつこく10回くらい通ったのではないだろうか。

 5月5日、子どもの日に掲載された広告であり、4月1日に入社して一ヶ月も経
たないうちの受注、先の外車ディーラーの広告より一ヶ月も早い新規開拓、何
もかも新しい体験・経験ばかりの中での「初めての広告」であり、その時の喜
びはすごかったのだろうと思う(少々、記憶が薄れている)。

 但し、この「今泉」社とのお付き合いはその一回きり、確か、担当者が異動
になって疎遠になってしまったのだと思う。そして、すっかり同社の名前を忘
れてしまっていた(浮き輪やビニール製品の製造元を見て「懐かしいなあ」と
思ったことは何度かあったが)。

 それが、突然、「自己破産」で「敗軍の将…」での再会である。懐かしさを
通り越して、唖然ボー然でもある。

 自己破産に至る経緯は同書を読んでいただくとして、残念ながら会社そのも
のが消えてしまうようであり、再生の途も閉ざされているとのこと。やや論理
の飛躍だが、自分のビジネスマン生活の足跡が消えていくようでもあり、少々
悲しい(ちなみに、もう一社、外車ディーラーも今は跡形もない)。


             (2010/07/05 人材開発メールニュース第587号掲載)


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