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CMの影響力について考える
 どうも昔、広告宣伝の世界にいたので、特に、テレビCMを見ていると細か
なところに目がいってしまい、気になってしょうがないことが多い。このとこ
ろ気になっているのは、携帯電話のCMで「家族間通話無料」のCMだ。CM
の特性として、短時間でメッセージと製品・商品・サービスなどの特徴を提示
しなければならないので、ある種の誇張、極端な示し方があるのは致し方ない。

 しかし、CMの影響力は強く、また、社会の一断面を切り取っている面もあ
る。そのCMは同じ部屋の中にいても、家族で携帯でのやりとりをするものだ。
「無料」だから料金を気にしなくても電話が気軽にできることを訴求している
といえるが、コミュニケーションの基本、まして家族ならフェイスツーフェイ
スが必要なのに、それを見事に無視している提示の仕方が怖い。それでも現在
のコミュニケーションの希薄化を携帯電話で補うというメッセージならわかる
が、たわいもない話題でのやりとりだけでの打ち出しはむなしく響いてくる。

 そしてもう一つ、飲料メーカーの果汁飲料のCM。アイドルタレントが課長
に「ぶどう」という漢字を聞くCM。課長が難しい葡萄という字を書けず当て
字になりその場から立ち去るというものだ。これも商品名を印象深く伝える訴
求の表現であるが、CMとはいえ、自分で辞書やパソコンソフトを使って「葡
萄」という字を調べず課長に聞くという依存性の高い若手社員の姿勢が寂しい。
まるで現在の世相を反映するように、やっとこさ採用して入社していただいた
新入社員に強いこともいえず、突き放すこともできず、上司がへりくだって雇
用の維持を図っている皮肉としか見えない。CM制作者やスポンサーの深謀遠
慮なのかとも思うし、こうした社員が跋扈している自社内を顧みての企画なの
かとも思う。

 繰り返し言うが、自社メッセージや製品・商品・サービスの特徴、他社との
差異化要因をいささかの誇張もせずに伝えることが大切といっているわけでは
ない。おもしろおかしく、時には「ありえなーい」状況で伝えることも、短時
間で強いインパクトを与えなければならないCMには必要だと思う。
 しかし、今回取り上げたCMがそうだというつもりは毛頭ないが、世の中の
悪しき世相や行動を容認し助長するかのごときメッセージはその企業の認識を
疑う。

 企業が社会に提供する製品・商品・サービスは、人々の不備、不満、不足、
負荷、負担など「不・負」の解消や新しいライフスタイルを提案するものと認
識している。基盤はそうでありながら、実際の商品・サービスの効用と乖離し
ているものは当然だが、伝達手段としてのCMにも悪しき風潮へのアンチテー
ゼがあってもいいと思う。


             (2007/10/01 人材開発メールニュース第451号掲載)


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