Back Number

報道の恥はかきすて?
 自分の住む町が全国ネットのニュースで長時間、報道されることはそうある
ことではない。もちろんそれが犯罪報道であれば歓迎すべきことではない。
 4月20日−21日に起こった東京都町田市での拳銃殺人犯の立てこもり事
件、それはまさしく私が住む町であり、私がほぼ毎日歩いている道での出来事
であった。20日は事務所で仕事をしていた。昼過ぎであろうか、上空にヘリ
が旋回していて騒がしいと思ったら自宅から事件を知らせる連絡が。家には外
出しないように指示して、事務所とは距離もありそのまま仕事続行、夕方、射
殺殺人の事件現場である頻繁に利用するコンビニを横目に、犯人の立てこもる
現場近くに差しかかる。

 道は警察車両と警察官に埋め尽くされ、現場と川一つ挟んだ対岸の私が通勤
に使っているサイクリングロードは報道陣と野次馬で埋め尽くされている。犯
人が拳銃を乱射して立てこもってから数時間経っていることもあり、現場には
さほど緊迫感はない。立てこもった都営アパート周辺以外、事件とは無縁の雰
囲気、とはいうものの、上空を旋回するヘリは4機に増えていて騒音がけたた
ましい。

 私は家路に急ぐべくサイクリングロードを自転車で走っているのだが、道沿
いには報道陣の列が続く。途中、全国ネットの某放送局のクルーが道を塞いで
いる。クルーの面々は気が付かないが、道を塞がれてベビーカーを引いた主婦、
車椅子の男性が立ち往生している。彼らはそんな人たちにお構いなしである。
さすがに我慢の限度が来て「どいてやったらどうですか」と声をかけると、報
道の腕章をした男性が「今、取材中だ」と大きな声で言い返してくる。どうみ
ても犯人に動きはないし、緊迫した状況でもなく、自らの処し方さえ意識すれ
ばすむことを報道という美名のもと、何でも許される態度が情けない。その男
はやっと周りを見渡し、非難めいた周囲の眼差しの多さにたじろぎ、やっと道
を半分空けた。

 そこを通過すると、大きな団地があるのだが、その団地の回りの道路にも報
道陣の車が鈴なりになって停車している。ここは駐車禁止区域なのにお構いな
し。タクシー、ハイヤーで乗り付けた報道の車に運転手が待機しているのが、
せめてもの救いか。報道の名のもとに何をやっても許される雰囲気が漂う。

 事件は結局、午前三時近くに警察が強行突入、といっても、犯人は拳銃でそ
の前に頭を撃ち自殺を試み、ほとんど抵抗のないまま解決に至る。
 21日朝、仕事があったので早くに家を出て、嵐のように報道陣が立ち去っ
た道を進む。といっても2−3社の報道クルーは土曜朝の番組での中継がある
のか、まだ残っていた。
 昨日、顰蹙を買った放送局のいた場所を通過すると、そこには誰もいなかっ
た。ただ、夜、待機中に飲んだのであろうコーヒーのカップや紙の袋のゴミの
数々、そして4−50本もあろうか、タバコの吸い殻がサイクリングロードの
花壇の中に捨ててあった。報道の恥はかきすて…であろうか。


             (2007/05/07 人材開発メールニュース第431号掲載)


Go to Back Number Index
Go to Top Page