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学習動機について考える
 「人はなぜ学ぶのか」あるいは「なぜ勉強しなくてはいけないの?」と尋ね
られたら、どのように答えればいいのだろうか。大学生の学力低下、学校での
学級崩壊、ニートの出現…学習意欲の低下に関しては、さまざまな本や報道で
耳にすることが多くなった。ちなみに「下流志向−学ばない子どもたち、働か
ない若者たち」(内田 樹氏著 講談社)にその実態は詳しく書かれている。
反面、有名大学・高校、果ては中学・小学校、お受験に代表される幼稚園まで
勉強に精出す子どもたちも多い(親の影響が大だろうが…)。そこには将来の
「格差」を予兆するものがある。

 そんな中、東京大学 市川伸一教授著「学ぶ意欲の心理学」(PHP新書)に
学習動機の二要因モデルが紹介されている。学習内容そのものを重視するかし
ないかの要素と、学習による直接的な報酬(見返り)をどの程度期待している
かの要素で、学習動機を6つの種類に分類している。
 「報酬志向」は文字通り、報酬を得る手段としての学習動機で、大企業に入
社するための有名大学を目指す学習はこれに相当するだろう。「実用志向」は
仕事や生活に活かす目的での学習になり、この動機は報酬も期待するし学習内
容も重要である領域になり、高度な国家資格取得者などがこの動機で学んでい
る可能性が高い。「自尊志向」はプライドや競争心から学ぶことで、周囲に負
けたくない、あるいは兄弟に負けたくない、親を超えてやるなどの動機になる
のだろうか。「訓練志向」は知力を鍛えるための学習で、学習内容の重要性は
高いものの、報酬の期待は中程度に留まる。報酬は期待せず学習内容の重要性
を重視するのは「充実志向」で、学習自体が楽しい、純粋な学習意欲の領域だ。
就職やキャリアアップ、報酬を期待することなく学ぶことに意義を持つ、生涯
学習などに精を出す層やさまざまな事情で学校に通えず、定年や子育て卒業後
に定時制や大学院で学ぶ人たちが入るのではないか。そして気になるのは報酬
期待も低く、学ぶ内容にも期待しない層、「関係志向」が6つめになる。他者
につられて、親に言われて、学ぶ層だ。学びたいという動機・欲求ではなく、
「学ばないと仲間はずれにされる」「学ばないと親にあれこれ言われる」が動
機で、いささか消去法的動機の気がする。

 翻って自分はどうだったのか。長い人生を生きてきて、その時々で動機は変
化してきたように思える。しかし、確実に言えることは「充実志向」だけはな
かったようだ。それがなんとも情けない。

 さて、皆さんはどうだろうか。
 そして皆さんの子ども、生徒、社員はどうだろうか。


             (2007/04/16 人材開発メールニュース第429号掲載)


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