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「転職を考えること」のすすめ
  10年ぐらい前のことになりますが、ある大手メーカーで30歳前後の社員を対象と
したキャリアプラン研修を試験的に実施させていただいたことがあります。キャリ
アプランという考え方は様々な捉え方がありますが、当時は事業・業務を進めてい
くためのスキルアップを目的とした研修が主流の時代であり、導入に苦労していた
覚えがあります。
 当時は、主体的にキャリア開発を行う自立した人材を育成する、個々人に自身の
キャリアについて考える機会を与える、という発想がまだまだ少数派で、また折角
導入したとしても、やはり個人を視点とした研修は、研修体系が見直される中で、
一番最初に削減対象になる傾向が強く、そのメーカーにおいても1回実施しただけ
で、次年度から中止になったことを覚えています。

 先日当時そのメーカーで研修を担当されていた方と、偶然再会いたしました。そ
の方は、今は既に退職されていますが、退職されるまでは会社の業績悪化に伴い、
早期退職制度の責任者として非常に苦労されたようでした。当然、当時のキャリア
開発研修の話題になったわけですが、「リストラする時に、社員の人達に自分のキ
ャリアについて考えろ!では遅すぎますね。30歳ぐらい、いやもっと若い時に自分
のキャリアについて考えさせる場面が必要ですね。」としみじみと語られていまし
た。

 最近色んな人から仕事に対する相談を持ちかけられることがあります。そういう
場合は、必ず転職を考えるようにアドバイスします。実際は転職することを勧めて
いるのではなく、転職も視野に入れて仕事に対する自分自身の考え方を整理して欲
しいために、転職を考えるように言っています。逆説的ではありますが、「辞める」
ことを考える中で始めて「続ける」ことの意味が整理されるように思われます。
 日頃、仕事の中では、よっぽど計画的な人を除いては、なかなか自分のキャリア
について考えることはできません。転職または会社を辞めるという具体的な場面を
想定することが、自分のキャリアを考える上で一番シミュレーションしやすいこと
であると思えます。色々と考えた結果、転職をしないという結論に達することも当
然あります。このような結論を出した方は、以前より仕事に前向きに取り組まれて
いるように見受けられます。

 個人の方からの相談に限らず、企業・職場においても「転職を考える」ことをも
う少しオープンに論議されるような機会や場があってもいいような気がします。
 こういう事を言うと批判的な意見も寄せられますが、これからの会社・組織は個
人にとっても働く魅力がある会社・組織でなければ成長できないと言えます。やめ
たくない、そこで働きたいと思わせるような魅力がなければ、組織は衰退していく
ように思われます。そのためには、もっともっと個人の方に、自分の仕事を続ける、
辞める、その他の選択肢も含め、考えさせる場面も企業として提供することが必要
であると思われます。


             (2003/06/30 人材開発メールニュース第242号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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