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「選択と集中」と創業者精神
 最近の経営キーワードとして「選択と集中」という言葉が定着しています。コア
となる事業分野を選択、限られた経営資源を集中していくという考え方ですが、読
者の皆さんの周りでも日常的な言葉になっているのではないでしょうか。
 私もクライアント企業またその他様々な場面で選択と集中という言葉を聞きます
が、同じように選択と集中と言葉が使用されていても、企業(経営者)ごとに若干
ニュアンスが異なるような気がします。

 「選択と集中」する分野を絞り込む上で、大きく分けると2つの方向があるよう
な気がします。一つはこれからの成長分野(今現在は成長していないが)を選択し
ようとする考え方。もう一つは成長分野を選択するのではなく、不採算分野を切り
捨てる、言わば消去法的な考え方、の2つの考え方が存在します。「選択する・集
中する分野」を決めている企業もあれば、「選択しない・集中しない分野」を先に
決めている企業もあります。

 勿論事業分野を選択するには、集中する分野とそうでない分野を切り分ける、上
記の2つのどちらかではなく両方を同時に検討する必要があります。しかし実際に
様々な企業を見ていますと同時に行われてはいますが、どちらかにウエイトが傾い
ている傾向が多いように思われます。
 ベースになる考え方が違えば、選択される分野も当然異なります。前者はリスク
をとって事業を積極的に進めるという形になりますし、後者はできる限りリスクを
減らす方向で事業分野が選択される傾向が強くなります。
(余談ですが、最近になって「選択と集中」と声高に叫ばれている経営者ほど、後
者に傾いているような気がするのは私の気のせいでしょうか…?)

 話は変わりますが、今年も何社かの新入社員研修をお手伝いさせていただくとと
もに、またいくつかの会社の新入社員研修の話を聞く機会がありました。早期戦力
化ということをテーマにスキル教育などは相変わらず様々な工夫が凝らされている
ようですが、以前に比べると創業者精神などを教える部分が少なくなったような気
がします。その結果かどうかはわかりませんが、新入社員に限らず「どんなことを
している会社か」については説明できても「何故つくられた会社か」について話せ
る社員の方が年々少なくなっているような気がします。

 選択と集中は経営だけでなく実務・現場でも必要になっています。不採算部門か
ら切り捨てるなど、「選択・集中しないもの」を先に決める方が簡単です。
 しかし前者の選択と集中、先行きがわからないものをリスクをとって選んでいか
なければ場面においては、分析、論理も及ばないこともあると思われます。見えな
いものを選ぶ基準、拠り所として、創業者精神や経営理念などが存在しているよう
に思われます。

 不確かなものを選択しなければならない時代、特に前向きな選択をしていきたい
と考えている企業においては、全社的にもっと創業者精神や経営理念などについて
理解を深める機会があってもいいのではないでしょうか?


             (2003/05/12 人材開発メールニュース第235号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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