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人事と社員の信頼関係
 リストラと言う言葉が日常的になり、ほぼ毎日リストラ関係のニュースを聞くよ
うになり、さすがに食傷気味だと言う方も多いのではないでしょうか。先日、リス
トラを進める日本のトップメーカーA社とA社から人材を受け入れようとする全く
別の業界の企業B社のやりとりを聞く機会がありました。A社が早期退職制度を進
めていると聞いて、B社がA社の生産技術などを学びたいので人材を受け入れたい
と言うことをA社に申し出た際のやりとりです。

 A社に人材の受け入れを申し出る際に、正直なところB社の人事担当者は、早期
退職制度を進めているので、受け入れ条件の調整は多少必要であるが、簡単に人材
を出してくれるだろうと考えていました。しかし実際にB社がA社に話を持ってい
くと、A社の担当者から「わが社はリストラを進め、現在希望退職者を募集してい
ます。人材の受入先があることは大変有り難いことですが、かといってどこの企業
にも出すというわけではありません。わが社を支えていただいた大事な人材を送り
出すわけですから、必要な情報を提供していただきます。」と言って、B社の人事
に関する考え方、受入事業部門の内容や今後の見通し、現状の課題、受入ポジショ
ンの内容など、詳細にわたって質問が繰り返され、簡単に人材を出してもらうと言
うよりもまるで審査されるような状況でした。そして一通り質問が終わると、後日
候補者を人選して資料を送付するということで最初の打ち合わせを終了しました。

 そして後日A社の担当者より候補者の人選を行ったので、候補者と面接して欲し
いとB社に連絡がありました。A社から推薦された候補者は、これまでの経歴やス
キルなど、まさにB社が希望する人材でした。B社の担当者は面接日を設定すると
ともに前回同様、色々なことを質問されるかもしれないと思い、面接日までに準備
を進めていました。
 面接日当日、B社の担当者は、候補者の方に一通り説明を終えたあとに、「何か
質問はありませんか。」と訊ねました。すると候補者の方は、「ありません。あと
はお任せします。」と一言言われただけでした。B社の担当者は、仕事内容も勿論
ですが、給与や勤務地なども現在のA社とかなり変わるために心配して再度候補者
の方に「条件など色々変わりますが、大丈夫ですか?」と再度訊ねました。すると
候補者の方は「うちの人事から良い話だと聞いています。私はA社に30年以上勤め
ています。多少の見解の違いはありますが、うちの人事部がやってきたことに大筋
間違いは無かった思ってます。人事(部)を信じていますので、人事(部)が良い
と言うのであれば間違いは無いでしょう。ですから後はお任せします。」B社の担
当者は、拍子抜けするとともに改めてA社のすごさを感じたと言われてました。

 私もこの話を聞いたときに、社員のためにできるだけのことをやる「人事部」、
人事部が行うことを信用している「社員」、「人事」と「社員」がこれだけの信頼
関係で結ばれている会社があるんだなぁと妙に感動してしまいました。と同時に、
本来の人事部門と社員の関係はこのような信頼関係が有るべき姿であり、この話を
珍しいと思う自分を恥ずかしくも思いました。またA社が長年にわたり、トップに
君臨する理由を垣間見たような気もしました。

 現在多くの企業で、非常に早いスピードでリストラが進められています。その中
でも順調に進んでいるところ、そうでない企業の差が見え始めています。順調に進
むものとそうでないものの違いは、「人事」と「社員」の信頼関係も一つの大きな
要因だと考えられます。恐らくA社のような信頼関係は、A社の「人」に対する考
え方が反映されたものであり、長い時間と明確な信念をもって培われたものである
と言えます。
 リストラという早急な対応が必要な環境であればあるほど、目先だけにとらわれ
ず、時間と信念を意識して「人事」を進めていく必要があると思われます。
 皆さんの会社の「人事」と「社員」の信頼関係はどうでしょうか?


             (2002/01/28 人材開発メールニュース第172号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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