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間違った公正・公平?
 最近、「公平」や「公正」という言葉を聞く機会が増えております。公正な
人事制度にしたいとか公平な教育制度をつくりたいなど、色々な使われ方をし
ています。

 ただ時々「公正」や「公平」という言葉が使われている場面で、おかしいな
と感じるときがあります。例えば人材開発の場面で考えますと、教育予算の見
直しなどを図るときに「公正に一律予算をカットする」、また人員を削減する
場面において、「公平に全部門パート・アルバイトは削減する」、また賃金な
ど人件費を低減する場面で、「公平に全社員の賃金を何%カット」などという
使われ方をされる場合やはり違和感を覚えます。
 一律、全員、全部門足並みを揃えて、何かを行うということは、一見公平や
公正な感じを受けます。しかし、本当の意味での公正とは、無駄なものを省き、
必要なところに必要なものを与えることではないでしょうか。一律に処理を行
うことでなく、必要なところを不要なところを見分け、差をつけて処理するこ
とこそ、公正であると言えます。
 例えば、前述のパートアルバイトの削減などの場面においても、削減してい
い部署と削減してはいけない部署がそれぞれ存在するはずです。本当に必要な
ものそうでないものを考えないままに、ただ全体一律で削減するということは、
全体のモチベーションの低下につながりますし、おそらく将来にわたっても同
じ事が繰り返されるだけです。

 私の周りでは、教育体系の見直しを進める企業が増えています。見直しと言
うよりも、社員教育をどのように縮小しようかという論調のものが多いように
思えます。今現在の傾向では、社員の能力開発については、企業の責任という
よりも個人の責任であり、個人が自らの能力開発を自らの責任によって、自発
的に行うという流れが強くなっております。また、このような傾向については、
今後もますます加速されることが予想されます。逆にいえば、個人の自発的な
能力開発と、企業が意思をもって経営に必要な人材をつくるという行為=人材
開発の棲み分けをますますはっきりさせる必要があります。

 しかし、残念ながら人材開発、社員教育の見直しの場においても前述のよう
な、間違った公平の論理が働いている場面が多いようです。教育予算を一律全
てカットするなど、社員の能力開発のみに任せるなど、大胆な?方針転換をす
る企業も少なくありません。勿論そのことが、熟慮された上での結論であれば
問題は無いかと思われますが、間違った公平論に簡単に押し流されているケー
スも少なくないようです。

 人材開発を担当する部門には、今後ますます教育・研修を続けるべきか、ま
た効果が上がらない研修・教育に対しては、中止や別の方法を考える場面も要
求されるケースが増えることが予想されます。そうなってから考えるのではな
く、絶えずリアルタイムで現在実施している人材開発施策の状況を判断し、人
材開発部門からも積極的に経営トップに対して情報を提供するなど、先に見直
しを打ち出し、人材開発部門のミッションを遂行するために必要な環境を確保
することも必要になると言えます。対処療法的な教育の見直しを行っている限
り、間違った公平論に押し流されてしまうのは仕方が無いことかもしれません。
経営サイドから見直しを要求される前に、自ら見直しをかけるというような危
機意識や先取りの感覚が必要ではないでしょうか。


             (2001/10/08 人材開発メールニュース第157号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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