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新入社員飛び込み営業の功罪
 4月も終わりになるこの時期になると、新入社員と思われる人達の飛び込み
営業や電話営業なるものを目にする機会が増えます。一時期に比べれば、だい
ぶその数も減ったような気がしますが、それでも毎日一回はそういう場面に遭
遇しているような気がします。実施する企業側からすれば、仕事を覚えると言
うことと度胸試しみたいなことを兼ねて実施しているのではないかと思われま
すが、営業を受ける側からすれば、あんまり歓迎すべきものではないように思
えます。

 新入社員の度胸試し的な飛び込み営業は、仕事を覚えてやる気を持たせると
いうことで考えれば、全く逆効果であるような気がします。仕事を覚える、や
る気を持つためには成功体験を積ませることが重要になります。一昔前、まだ
市場が成熟していない段階では、飛び込み営業も営業機会を増やすと言うこと
で、成功体験を積める場であったかもしれません。しかし、現在は既に多くの
市場が成熟段階を迎え、営業活動においても十分な情報提供が無ければ成果に
結びつきません。飛び込み営業が、成功体験を生む機会でないと考えれば、新
入社員のモチベーションを低下させるだけに過ぎないような気がします。

 また企業レベルで考えても、市場が成熟する中で新規開拓が難しくなる一方
で、一定の業績を維持するためには、いかに既存顧客との取引関係を維持強化
するかということが重要なポイントとなります。そういった状況の中で、既存
顧客に対しても(意図的ではなくても)飛び込み営業をさせている場合は、か
なり危機的な状況にあると言えます。以前から取引のある企業から、全く状況
がわかっていない新人が飛び込み営業に来た場合、それを好意的に受け止める
顧客はほとんどないと思われます。営業活動による信頼関係の構築は、失敗す
るとゼロでは無くて、マイナスに作用することは言うまでもありません。

 私の周りでも、企業の採用担当者から、新卒に関してはかなりいい人材の採
用ができたという声を聞くことが増えています。しかしその一方で、いい人材
を採用したが期待通りに成長していない、また思ったより辞める人が多いとい
う声を聞くことも増えています。このような声を聞くのは、新入社員本人たち
のやる気を促すような成功体験を積ませていないことも原因の一つではないか
と思われます。成功体験が積みにくい環境では、計画的に成功体験を積ませる
仕組み作りを考えなければ、折角獲得した優秀な人材を、ただ失うだけになっ
てしまいます。

 新入社員に限らず、最初の段階でやる気があればあるほど、成功する可能性
が低い仕事を継続的にやらされると、成功しないことに対する不安や焦りが募
り、積もり積もった不安や焦りが自分自身の許容範囲を超えると失望や喪失感
に変わってしまいます。時間が経過するほどに、飛び込み営業でやってくる新
入社員と思われる方の表情が暗くなっていると感じることもあります。一企業、
一職場の問題に留まらず、産業全体を担う人材という観点から考えると、何も
考えずに昔からのやり方を継続することで、計り知れない多くの意欲ややる気
を失っているのではないでしょうか。


             (2001/04/23 人材開発メールニュース第135号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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