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リスク管理の考え方
 最近、企業やまた教育の現場においても、リスク管理やリスクマネジメント
という言葉がよく使われています。何らかの発生した問題に対しどのように対
応をするか、対応方法により企業のイメージやまた企業そのものの実力を問わ
れるケースが増えているのは、周知の事実です。
 リスク管理、リスクマネジメントにはいろいろな考え方があり、その対応策
も様々ですが今回はリスク管理の基本的な考え方について触れたいと思います。

 リスクとは、将来発生が予想される問題であり、リスク管理とは将来どのよ
うな問題が発生するかを想定すること、また発生した問題にどのような対応を
とるかと言うことです。
 つまりリスクを検討する場合には、予防対策(事前対策)と発生時対策(事
後対策)の2つの考え方が必要です。
 予防対策は、いかに将来発生する可能性を少なくするかと言うことであり、
発生時対策は、防ぎきれずに発生した問題に対してその影響度、重要度をでき
るだけ減らすかと言うことです。ことわざで言えば、前者は「転ばぬ先の杖」、
後者は「備えあれば憂いなし」という感じでしょうか。

 日本人および日本の企業の特徴として、どちらかというと予防対策が弱いと
いうことがよく指摘されます。リスクの想定が不十分なため、結果として対策
を準備していることが限定され、全体的なリスク管理力が弱いと指摘されるこ
とがよくあります。
 例えば、研修でグループ討議をする場合(リスクをテーマにした研修とは限
りませんが)、ある課題に対する対応策については、いろいろな意見が出され
ますが、課題そのものを設定する場合、グループ間での相違が少なく、同じ様
な意見でまとまる傾向があります。インハウスの研修(社内研修)であればあ
るほど、また部門単位での研修であればあるほど、その傾向が強くなります。
共有されている情報が多ければ多いほど、想定されるリスクが限定される傾向
が強いのではないでしょうか。
 先のグループ討議の例ではありませんが、個別では少数ながらも様々な意見
が出されているにもかかわらず、討議を重ねる段階でありふれた、日頃からよ
く問題として出されているものに集約されるケースがあります。

 リスクを検討する場合には、意見をまとめず、個々人に自由な発想をさせる
ということが前提条件となります。素朴な疑問を含め、日頃から当たり前だと
思っていることにも「なぜ?」とという姿勢を持つことが必要です。
 また、より一回り大きい視点から考えることも必要です。個人であれば、部
門全体の業務という視点から自分の業務を考え直す、また部門であれば他部門
を含め全社的な観点から見直す意識が重要になります。自分(自部門)の業務
に対する他者(他部門)や顧客を含めた利害関係者の要望や期待や不満を常に
把握する(真剣に聴く)ということが大切です。
 どのケースでもそうですが、要望・期待・不満は、時間と共に変化し続けま
す。想定した要望・期待・不満と実際の要望・期待・不満のズレを認識するこ
とで、様々なリスク(リスクに限ることではありませんが)のヒントを得るこ
とができます。当たり前のことを地道に繰り返すことがリスク管理の第1歩だ
と言えます。

 当然の事ですが、予想外のできごとを完璧に防ぐのは不可能です。予防対策
を行う目的は、将来を想定して、不確実性が高いものを管理可能なレベルにし
て、「将来を“できるだけ”管理する」ということです。そのためには、個々
人のレベルでは、リスクという考え方や意識を持つこと、あわせて会社、職場
レベルでは、自由な発想、素朴な疑問などを受容する環境が必要であると言え
ます。


             (2000/07/10 人材開発メールニュース第96号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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