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個人の能力開発と企業のサポート
 個人が自らのエンプロイアビリティー(現在の雇用価値または継続雇用可能
性)を高める必要があるという認識が高まる中で、個人が主体的に能力開発に
取り組む機会が増えています。企業側からみると、個人の能力開発は、個人の
責任で取り組むべきものとして、会社(事業)として必要な資格などを除いて
は、どちらかというとウエイトが減らされる方向にあるにもかかわらず、資格
取得やビジネススクールを中心に個人の主体的な能力開発への取組が増えてい
ます。

 環境的な側面で考えると、雇用保険法の改正により98年12月からスター
トした「教育訓練給付金制度」が個人の能力開発をバックアップしていると考
えられます。教育訓練給付金制度は、雇用保険に5年以上加入している人が、
労働大臣の指定する民間の専修学校、公共の職業能力開発施設などが開く教育
訓練講座を受講し修了した場合、かかった費用の8割(最大20万円)を国か
ら支給するというものです。
 先日、教育訓練給付金制度の99年度利用実績が発表されましたが、給付金
受給者数は約15万人で、支給額は約132億円にものぼっています。また、
国家レベルで雇用対策への要請が高まる中で、より高度な訓練講座を受講でき
るようにするため、2001年1月から助成率は変わらないものの支給額の上
限が30万円に引き上げられることが決まっています。

 このように現象面でみると、個人の能力開発は進んでいるように見えますが、
一部では本質的な部分で問題があるケースもあります。すなわち目的と手段の
乖離ということです。
 本来、能力開発は、何らかの目的を持って取り組むものです(能力開発に限っ
たことではありませんが)。特に現在、個人の能力開発に取り組む環境が整備
されていることもあって、目的はともかく「とりあえず資格をとってみよう」
とか、「とりあえず勉強してみよう」など手段が先行してケースも多く存在し
ているようです。資格取得、自己啓発することが一種のブームになっているこ
ともあります。
 結果として、学んだ事が自分自身の役に立たない、時間とお金をかけて自己
投資をしたが成果に結びつかないというケースも増えているように思えます。

 個人の能力開発を否定する訳ではありませんが、能力開発を取り巻く環境が
良くなりつつある現在をチャンスと思えば、ますます目的を明確化するという
ことが必要になると言えます。
 具体的に言えば、個人のライフプランやキャリアプランを考えた上で、現状
の自己能力の棚卸を行い、能力開発に戦略的に取り組むことがますます必要に
なると言えます。

 また企業側においても、「能力開発は個人の責任」でという考え方に傾斜し
すぎ、個人に委ねすぎているケースもあります。
 企業、個人の双方が共に発展するためには、個々人の主体的な能力開発を企
業側が経営や事業の中に上手く取り入れていく必要があります。例えば、個人
の能力開発を計画的に行うためのキャリアプランを考える機会を与えることや、
会社として現在および将来必要な人材、能力を明示することが必要になります。
 これまでの企業側の能力開発に対するサポートは、手段面のサポートが中心
でした。しかし、今後は目的面での個人に対するサポートを強化し、個々人の
能力開発を経営に活かすことが重要になると言えます。


             (2000/06/26 人材開発メールニュース第94号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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