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受講者評価と研修の見直しについて
 体系的に教育を行うというのは原則ですが、教育スタッフがいない企業また
教育スタッフが複数の業務を兼務している企業では、体系的な教育(目的)の
見直しよりも、研修プログラム(手段)の見直しが優先されるケースが多いと
言えます。前年ベース(前回の研修が良かったか悪かったか)で、来期の研修
をどのようにするかという考え方です。その際、最もよく使われる判断基準の
一つは、受講者の声(感想)です。むしろ受講者の声で、翌期の研修が決定さ
れることも多いのではないでしょうか。今回は研修と受講者評価について考え
ていきたいと思います。

 受講者の評価は、研修後のアンケートや研修中の受講者の感想や表情などで
把握することができます。しかし、ここで注意しなければならないのは、受講
者の評価が高かった研修=良い研修であったかということです。受講者の「良
かった」、「役に立った」という声や満足は、研修を評価する視点として重要
であることは間違いありません。
 しかし、人材開発、社員研修は経営計画を推進するための人づくりを行うこ
とが大きな目的です。したがって一つ一つの研修テーマも、その時々の経営方
針や経営課題に対応したものでなければなりません。一研修プログラムとして
は、受講者の満足が高いものであってとしても、経営課題に対応したものでな
ければ、他の研修プログラムとの優先順位も含めて見直す必要があります。ま
た現在、人材開発、社員研修に求められているものは、受講者の保有能力のレ
ベルアップよりも発揮能力のレベルアップに貢献しているかいう点です。研修
を通して学んだことが、ただ単に受講者の知識レベルの欲求を満たすものでな
く、実務にどのように応用されているかが大事です。
 受講者の「良かった」「役に立った」という声が、個人的に役立つものであ
るのか、また仕事を進めて行く上で役立つものであるのかを聞き分けることが
必要です。

 また、受講者評価から考えると、逆の問題もあります。受講者の評価、評判
が低かったものをどうするかということです。受講者の評価が低いものは、翌
年から即中止というケースもよく見受けられます。受講者評価が良くない研修
は、社内的に進めにくいのは当然です。しかし、評価が悪いという事実だけで
なく、その背景にある評価が悪かった原因の究明を確実に行うことが必要です。
原因を究明した上で、テーマとしてはずせないものは、継続していかなければ
なりません。経営課題の優先順位から考え、必ず実施しなければならないとい
うことが確認できれば、後は方法論の問題です。カリキュラムや講師を含め研
修プログラムの見直しが必要になります。ただし前回評判が悪かったという、
ハンデがありますので、セミナータイトルを変えたり、受講者の参加前のモチ
ベーションを高めるなど様々な工夫が必要になります。
 また、シリーズで研修を実施するものなど複数回数実施するものは、年間計
画に組み込んでいるものでも、初回研修の評価が良くないケースの場合は、臨
機応変な修正が必要ですし、修正しても期待すべき効果が望めないと判断した
ものは、延期または中止することも必要になります。教育計画を進める中で重
要なことは、計画通りに実施することではなく、計画通りに効果をあげること
です。

 いずれにせよ、受講者の声は研修を評価する大きな基準になるのは、間違い
ありません。しかし、受講者の声だけで研修の継続や中止を決めるのではなく、
所与の教育目的の達成度から研修を見直すことが必要です。また、研修プログ
ラムで達成しようとする教育目的自体が、さらに上位の概念である経営課題の
解決に役立つものかという点から見直すと、どこに問題があるのかが見えてく
るのではないでしょうか。


             (1999/11/08 人材開発メールニュース第63号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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