Back Number

業績主義と倫理教育
 先日労働省から発表された「平成10年賃金労働時間制度等総合調査結果」に
よると、1000人以上の企業で25%以上の企業が年俸制を導入するなど、
年功主義から業績主義の賃金体制への移行がうかがえる。業績主義への背景に
は、社外的経営環境で考えれば、グローバルな競争環境に突入する中で、コス
ト抑制が不可欠であること、また社内的経営環境で考えれば、業績・成果を評
価することで社員のモチベーションの活性化を図ることがねらいとされている。

 しかしその一方で、日本の産業界において不祥事や事故が相次いでいること
も見逃せない。先日の東海村臨界事故(事故と呼ぶべきかどうかも考えなけれ
ばならないが)もそうであるが、業績や利益を追求する以前に企業として優先
すべき事が何であるかということが非常にクローズアップされている。
 事故を起こした会社ではリストラが進められる中で、熟年労働者が解雇され、
非熟練労働者が作業を執り行っていたこと、また作業を行っていた社員が非熟
練者にもかかわらず、作業内容の意味や手順について十分な教育が行われてい
なかったことなどが事故の一因として取り上げられている。事故が起きたから
ということではなく、一つの作業や顧客への対応について、その意味、重要性
やリスクをわれわれはもう一度考える必要がある。

 つまり業績主義が強化されればされるほど、企業の倫理基準、倫理基準に基
づいた行動の必要性や重要性が高まるということを認識する必要がある。
 業績主義や成果主義が進む中で、よりよい成果を産み出すための、個人また
はチームの自由裁量や創意工夫は必要である。しかしあまりにも成果が重視さ
れプロセスを軽視することになっては、「成果のためには手段を選ばない」と
いうような風潮になりかねないのも事実である。ある1社員の行動が、顧客、
社会との信頼関係を簡単に崩してしまうことも十分に考えられる。

 今後ますます業績主義への移行が進む中で、ますますこのような問題に直面
するケースが増えることが予想される。企業倫理を確立するため、また社内で
の公正な競争を維持するため、倫理基準の作成やルールの制度化や、日常業務
で倫理基準が守られるような教育や支援体制づくりがこれから人事教育部門の
大きな課題の一つになることは間違いない。


             (1999/10/11 人材開発メールニュース第59号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


Go to Back Number Index
Go to Top Page