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選抜・選択教育について
 今回は現在の人材開発のキーワードになっている、「選抜」「選択」教育に
ついて考えていきます。

 大企業を中心に行われてきた、画一的で平等な教育の反省と教育コストの削
減や効率化の要請から、選抜型教育が行われるようになりました。経営上で必
要な人材に絞り込み重点特化して教育を行うものです。
 従来の階層別教育や集合研修は個々人のニーズやタイミングに適合せず、受
講意欲や受講後の満足度が低いなどの問題がしばしば取り上げられ、結果的に
教育投資を行っても効果が見えないもの、または見えにくいものは、削減され
る傾向にあります。その一方で、経営者・管理者の早期選抜による早期育成、
ミドルマネジメントの中から選抜したメンバーへの長期研修が増えています。
 また一般社員を中心に、自分の雇用機会は、自分で獲得、確保しなければな
らないという、「自己責任による能力開発」という考え方が定着し、自らのキャ
リア開発の方法を選択する、選択教育という考え方が主流になっています。

 しかし、「選抜」「選択」教育・研修は、その考え方は支持を得ながらも実
際の運用場面では、上手くいっていないケースが多いようです。
 例えば、選抜教育では、あまりにも選抜が強調され、選抜されなかった者の
意欲低下や社内の人間関係の悪化が起こるケースも少なくありません。中には
選抜研修と言いながら、その参加者や内容を社内にオープンにせずに、対象者
だけに知らせて進めている企業もあります。
 また選択教育は、社員各個人が必要性に応じて、自ら教育研修を選択するも
のですが、いわゆるポータブルスキル(社外でも通用する技術、技能)と呼ば
れる資格などの、スキル開発ばかりに注目が集まり、短期的な流行に流される
傾向が強く、長期的な各人のキャリア開発に寄与していないという指摘がされ
ています。また、社員の能力開発の関心がポータブルスキルばかりに傾き、自
社独自の技術、技能(インハウススキル)の開発や伝承を自主的に行う社員が
減っている(例えばQC活動の低迷など)と指摘されています。

 選抜・選択教育において何故このような問題が、起きるのでしょうか?
 本来、選抜・選択教育の導入目的は、画一的な教育・研修からの脱却であり、
個々人の必要性、キャリア・プランに適合する適切なタイミングでの教育研修
の実施ということにあります。

 選抜教育で考えれば、選抜教育という名前は別として、本来は、リーダー、
エグゼクティブの早期育成を行うことが目的です。世界的な大競争時代の中で、
より戦略的な行動ができるエグゼクティブやリーダーの育成が求められ、その
育成にそれなりの期間が必要になります。しかし、選抜教育が社内環境を悪影
響を及ぼしている企業の場合、社内の興味関心が選抜という行為(選抜者と非
選抜者)に集まり、本来の目的に関するコンセンサスが社内で充分取れていな
い場合がほとんどです。

 一方選択教育では、全てを個人に任せるのではなく、教育部門のサポートが
必要になります。場当たり的な自己啓発は、企業、個人双方に何のメリットも
ありません。個人のキャリア・プランを明確にした上で、必要な情報の提供な
ど、教育部門はキャリア開発のアドバイザー的役割が求められます。個々人の
キャリア開発を成功させるためには、特にキャリア・プランを策定する段階で
の支援が必要になります。

 選抜と言えば少数精鋭、また選択と言えば個人主体というイメージばかりが
先行し、全社のレベルアップや底上げとは違う次元のものであるように思える
ところに、落とし穴があります。全社のレベルアップをより効率的に行うため
に始まったのが、選抜教育であり選択教育です。
 ダウンサイジングや組織の水平化、また勤務形態の多様化により、管理者一
人あたりの部下の数は増大し、きめ細かな指導やアドバイスを行う機会が減少
するなど、職場の教育力が失われつつあります。再度、選抜・選択教育の意味
を捉え直し、全社の底上げやレベルアップにつながる形で運営しなければ、各
企業独自の技術、ノウハウの開発、伝承ができなくなる可能性もあります。企
業の経営戦略の方向性と選抜・選択教育の整合性を図ることが今後教育担当者
にますます求められると言えます。


             (1999/07/05 人材開発メールニュース第46号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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