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教育部門の存在意義
 景況感に回復の兆しが見えつつあるが、企業におけるリストラはますます速
度を上げているように思える。私が住んでいる福岡も1年前までは、比較的元
気な都市として取り上げられることが多かったが、老舗百貨店福岡玉屋の廃業
決定や地域のリーディングカンパニーであるTOTOや九州松下電器をはじめ
として、連日リストラ関係のニュースが相次いで発表されている。
 またリストラに伴い、社員教育を担当する部門においても、社員教育部門が
人事部門に統廃合されたり、人事部門が管理部門に統廃合されたり、社員教育
に関するあらゆる資源(人やカネや時間)が削減されている企業が増えている。
一方、社員教育の必要性、ニーズという点から見ると環境変化への対応を図る
べくニーズは減少するどころかますます多様化し、増え続ける一方である。
「多様化、増加する教育ニーズに限られた資源で経営トップの期待にいかに応
えていくか」、今まさに教育部門の存在意義が問われている。

 教育部門の存在意義を考える場合、これまでの提供プログラム再度点検する
必要がある。従来型の研修、知識やスキルの向上を目指した階層別研修や職能
別研修が本当に意味のあるものであったかという問いかけが必要である。極端
な言い方をすれば、企業がカネを払ってまで、全員一律に知識、スキルを向上
させることが必要であったかという問いかけである。例えば、営業部門に配属
された新卒同期入社の二人が、同じ教育プログラムを受けたにも関わらず、数
年後には営業成績が倍ほど違うということも珍しくない。しかもこの二人は職
務知識やスキルなどそれほど差が無いということであれば、知識、スキル(教
育)と業績の相関関係に疑問符がつくことは言うまでもない。階層別、職能別
研修を全て否定するわけではないが、従来型教育では知識、スキルを向上させ
ることが業績向上につながる可能性が高いという意味合いが強かったと言える。
 むしろこれからは、個人と企業の雇用関係が変化する中で、職務知識やスキ
ルの習得は、各個人が主体的に取り組む能力開発に属する領域になると考えら
れる。企業とよりよい条件で雇用関係を結ぶために、個人の自己責任によって
習得すべきものに変化していくと考えられる。すでに教育訓練給付金制度など
の法的な整備や、大手教育機関が法人対象にした教育プログラムよりも個人を
対象にした教育プログラムの商品開発が増えてきているのも、この流れに沿っ
たものである。
 このような状況下で教育部門は、個々人の主体的な能力開発を支援する情報
提供など環境の整備を行うことが求められる。教育部門が全て実施するのでは
なく、費用負担も各人の自己投資型への比率を高めながら、必要に応じて個々
人のキャリア開発を促進するアドバイザー的な機能が求められる。

 ※余談であるが、能力開発や人材開発の言葉の定義付けを再確認すると、個
人の意志で行われる自己啓発などを能力開発、企業・組織側の意図により実施
される研修などを人材開発(もちろんもっと広義の解釈の仕方もあるが)と定
義することをお薦めする。今後、教育の責任主体は様々な場面で重要なテーマ
になると考えられるが、両者は混同して使われているケースが多い。

 それでは、従来階層別教育や職能別教育で教えていたモノを個人の能力開発
に全て移行した考えた場合、教育部門が行う人材開発は何があるのであろうか?
 それは、各企業の核となる業務を遂行するコア人材の計画的な育成である。
そしてその中心的な手段として集合研修が運用される必要がある。集合研修に
は、次のような特性がある。
 ・戦略的意図から状況に応じて自由にテーマが設定できる
 ・必要な人材に絞って実施できる
 ・社内外の専門性を活かすことで、最も効果的な方法によって、効果を確保
できる
 しかし、これまでは集合研修の特性が活かされないままに習慣的に実施され
てきた傾向が強い。予測不可能な経営環境では、過去の知識や経験だけではと
ても対応できない。事実を正しく把握し、事実に潜む本質を見抜く力が要求さ
れる。そして、本質を追究する学習には、深く思考する場所と時間が必要であ
る。集合研修はその意味で本質学習の最高の機会になると言える。

 今、教育担当部門に求められているのは、個人の能力開発を支援する機能と
コア人材を育成する機能であると言える。経営戦略に応じて、企業単位また組
織単位でコア業務・コア人材に求められるものは、異なっている。コア業務・
コア人材は、それぞれの組織に特有のものであることを前提として考えれば、
各組織に必要なコア人材の育成は、その企業の教育担当部門にしかできないこ
とであり、ここに教育担当部門の存在意義があると言える。そして、その最も
有効な手段として集合研修を位置づけ直し、本当の意味での戦略的な集合研修
の開発・運営が必要になると考えられる。


             (1999/03/29 人材開発メールニュース第32号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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