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新入社員研修の見直し
 今年も新入社員を迎える季節になった。企業規模の大小を問わず、各企業に
おいて様々な工夫を凝らし、新入社員研修が企画・運営されている。一般的に
新入社員研修の目的は、社会人としての意識変革と職場における基本行動を習
得させることであると言われている。そして一日でも早く、戦力として活躍し
て欲しいというのが、企業サイドの願いである。しかしその一方で、研修実施
方法の行き詰まりや、新たな展開が見いだせないなど、教育担当者の悩みの声
を聞くことも多い。そこで、新入社員研修を見直すためのいくつかの視点を述
べていきたい。

●業務知識・スキルの習得は、少し長い視点を
 早期戦力化を図りたいという企業側のニーズもよくわかるのだが、そのため
に消化不良を起こしているケースも多く見られる。例えば、新入社員研修の成
果を図るために、理解度テストを実施するケースがよくあるが、研修の実施者・
受講者双方ともテストの得点を上げるための学習が優先し、大学・高校受験時
のように試験後に詰め込んだ知識が全て忘れられていることになっていないだ
ろうか。資格取得が目的の学習であれば、このような学習方法を必ずしも否定
はしないが、現場で活用する業務知識の習得が目的であれば、本末転倒である。
 限られた集合研修の中で、教えられる内容には当然限界がある。業務知識や
スキルの習得については最低1年単位での目標値を設定し、集合研修でやるべ
きこと、その後の現場教育やフォロー教育の中でやるべきことのすみ分けが必
要である。

●難しいことを教えるよりも、簡単なことで成功体験を積ませる。
 初めて受けた研修に対して受講者がどのようなイメージを持つかは、以後研
修に参加する際のモチベーションに大きな影響を与える。新入社員には、難し
いことを教えて混乱させたり、研修や学習に対する苦手意識を持たせるよりも、
簡単なものから確実に教えて、成功体験を積ませることが大事である。研修や
仕事に限らず、学習することで「わかる」、「できる」など、自分の世界が拡
がる経験を持つことは嬉しいものである。そこで得られた喜びや達成感は次の
ステップへの挑戦意欲に変わっていく。
 人材開発のひとつの方向性として、「学習する組織への変革」が期待されて
いる。組織自ら課題を生み出し、課題解決を図りながら、そのプロセスを蓄積
し、さらに高度な課題を見つけだす。学習循環の中で組織が成長していくとい
う考え方である。学習する組織には、メンバーの一人一人の課題発見・解決な
ど主体的な取り組みが必要である。メンバーの主体的取り組みを維持・増進さ
せるのは、成功体験の質、量のレベルが大きな影響を与える。
 新入社員研修の場面で考えれば、「やれる」,「できる」という喜びを持た
せ、その喜びが次の学習への推進力になる仕組みを作ることが必要になる。そ
のためには、個々の成長プロセスを管理するために目標設定の細分化と進捗状
況に応じた細かなフォローが必要になる。最近徐々に見られる、イントラネッ
トの活用など社内情報ネットワークを利用した人材開発は、個別管理の必要性
に応える動きの一つである。新入社員研修特に業務知識の習得については、イ
ントラネット活用による人材開発は、有効かつ着手しやすい領域であると言え
る。

 新入社員研修の多くは、集合研修でスタートすることが多い。集合研修の形
態を否定するわけではないが、「本当に集合研修でやるべき事なのか、集合研
修で実施する方が効果が期待できることなのか」という本質的な問いかけは、
研修を見直す場合不可欠となる。その上で、計画的な成功体験を積み重ねる仕
組みを作ることで、学習する組織を支える自律型人材への第一歩を歩ませる新
入社員研修の展開に期待したい。


             (1999/03/01 人材開発メールニュース第28号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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