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アセスメント研修概論(2)
 人材開発メールニュース第22号でアセスメント研修のメリットや成功させ
るポイントを取り上げた。今回は、アセスメント研修の問題点を整理すること
を通して、実施する際の留意点について述べてみたい。

●人事データに関する問題点
 アセスメント研修には、評価測定と能力開発という2つの側面があるという
ことを述べた。人事データとして評価測定を求めようとしても、アセスメント
研修で導き出される結果は、研修室内という実験室での評価であり、実際の職
務や現場での行動そのものではないために、人事の決定的データとしては利用
できないという批判がある。
 これは、以前「評価」と「測定」のところで述べたが、アセスメントで得ら
れる結果は測定結果である。○か×を決める評価の場面においては、他の人事
情報と併せて総合的に判定することが必要である。
 測定の精度を高めるためには、非評価者一人当たりのアセッサーを増やす、
アセッサーのスキルを教育訓練で向上させる、アセッサーの測定精度を上げる
ためにチェックリストなどを作って観察評定の標準化を徹底するなどの方法が
必要になる。いずれにせよ、人を測ることには、唯一正しい方法はあり得ない。
従って絶えずアセッサーのレベルを上げながら、アセッサーが用いるツールを
改良・開発する姿勢が望まれる。その姿勢こそが、納得性の高い人事をもたら
す最大の要素となる。

●ディメンションに関する問題点
 研修を実施する場合、ディメンションに応じて演習課題が設定される。しか
し、アセスメント研修で指摘される問題点として、ディメンションの定義に従っ
た個人差ではなく、適用される演習課題による個人差があらわれるという点で
ある。例えば、課題の内容が非評価者にとって身近なものや得意なものであれ
ば、測定ポイントが上がり、課題の性質によって測定結果が左右されるという
ことである。
 この対策としては、実施時間など制約条件はあるが、課題の種類を増やし、
できるだけ複数の課題からひとつのディメンションを評価することが必要にな
る。また、一般的な能力スキルが現れやすい課題を開発・改良・設計すること
が必要である。

●費用に関する問題点対策
 アセスメント研修は、複数のアセッサーを利用することや演習や適正テスト
など数多くのツールを使う事が多いため、他の研修プログラムよりも莫大な費
用がかかる。目的を整理しなければ、プログラム開発に重点投資すべき点も曖
昧になり、投資金額の見合った成果を得られない恐れがある。
 一つ目の対策として、アセッサーの社内育成があげられる。
アセッサーには専門的な技術が必要であり、相当な教育訓練が必要ではあるが、
社内育成ができればコストを抑制するだけでなく、アセッサーを担当する人材
の教育効果も期待できる。長期的かつ戦略的な教育投資を考えた場合、今後社
内アセッサーの育成は増加することが予想される。
 二つ目の対策として、アセスメント研修の受講対象者が多い場合、選抜制で
実施する方法である。対象者全員にテストを実施したり、上司の推薦や人事考
課の結果などを利用して、アセスメント研修参加までのハードルを高く設定し、
対象者を絞り込んだ上で研修を実施する方法である。

 納得性の高い人事を実現するために有力な人事情報を得たいという企業のニー
ズから、アセスメント研修に対する期待は今後ますます高まっていくと予想さ
れる。しかし、今一度注意したいことは、客観性は納得性の必要条件ではある
が必要十分条件では無いということである。納得性の高低は、データの客観的
信頼性と、データを導き出すために携わった人々の知恵、工夫、努力などのプ
ロセスを併せて決定するものであると考えられる。
 これからアセスメント研修に求められるのは、プロセスと結果の公開であろ
う。プロセスや結果を公開することは、期待する人材像を提示することである。
アセスメントは期待すべき人材であるかどうかを測定することが目的であり、
その基準を示すものである。測定結果の高低の理由を広く公開することで、対
象職位以下全社員の能力開発課題が明確になる。アセスメント研修は、他の研
修プログラムより投資額が大きくなるため、単に人事評価としてのデータ収集
だけでなく社員への能力開発展開につなげることで始めて、費用対効果が期待
できる。投資費用に対する二次、三次的な効果を生み出すような運営方法が、
教育担当者に今後ますます求められると言える。

▼関連コラム
「人材測定と人材評価」   http://blog.livedoor.jp/hrd_net/archives/35579121.html
「アセスメント研修概論」 http://blog.livedoor.jp/hrd_net/archives/35762888.html


             (1999/02/15 人材開発メールニュース第26号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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