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人材測定と人材評価
 人材評価・人材測定という言葉は、非常に身近な言葉になってきている。しかし、
今一度原点に戻り、その言葉の意味を考えてみたい。
 測定は、人材のさまざまな特性を客観的に数値で表したもの、または数値で表そ
うと工夫したもので、その目的はデータの提供である。したがって、測定は社内だ
けでなく、外部機関(第三者)でも実施することができる。一方評価は、組織の中
における人材の価値を判断し、最終的に決定を下すこと、測定されたデータをもと
に判定を行うことである。具体的に言えば、採用選考の場面や昇進昇格の場面など
で、是非を決定することである。人材の測定は第三者にもできるが、評価は組織の
当事者のみができることであり、また第三者に委託すべきものではない。

 上記の通り、測定と評価は意味が違うものであるが、現実の場面では意外に混同
されているケースが多い。外部機関で実施したテスト結果のみで、評価を決定しよ
うとする姿勢は、まさに測定と評価を混同しているケースである。
 重要なことは、得られた測定データを参考にした上で、社内で十分な検討を行い、
企業独自の判断基準を確立し、結論を決めることである。勿論、人を評価する場合、
100%正しい判断や方法は存在しない。企業や経営者に求められるのは、判断の
精度を高めること、高めていこうとする努力を行うことである。判断の精度を高め
るということは、評価する側、される側両者が納得する度合いが高まっていくこと
である。

 では、企業独自の判断基準を確立するための有効な方法はどのようなものがある
のだろうか。具体的な方法のひとつとして「測定データの追跡調査」があげられる。
 例えば採用選考の際に、SPIに代表されるような適性テストを利用している企
業は非常に多い。しかし、適性テストのデータを採用選考時に判断材料として活用
するだけでなく、数年後に測定データおよび評価に関する検証を行い、活用してい
る企業は少ないと言える。適性テストと呼ばれるもののほとんどは、能力と性格を
様々な項目で分析し、総合的な人物特徴を測定するものである。総合的な人物特徴
の把握に主眼が置かれ、逆に折角分析された個別項目への注目度が低いケースが多
い。測定データの追跡では、採用した人材の数年後パフォーマンスと個別項目の因
果関係を分析しようとする試みである。例えば、離職率が高い職場であれば、どの
ような傾向の人が活躍しているか、またどのような傾向の人が辞めてしまったか等
を、個別の項目と照らし合わせて検証することである。データ数が多い方が良いが、
データ数が少なくとも、現在の状態から仮説を立て、過去の測定データを検証する
ことを繰り返すことで、企業独自の判断基準の確立が可能になる。

 前述の通り人材の評価・測定に関しては、完璧と言うことはありえない。組織が
様々な考えや能力を持った個人の集まりである以上、組織の目的のひとつは、公平
に一個人を評価することであり、組織を構成するメンバー全員が各人への評価を納
得して受け入れ、相互に発展していくことである。そのためには、人材測定・人材
評価システムは、ますますシステムとしての精度を挙げる努力を進めていく必要が
ある。
 価値観が多様化、特に働くことの意味がますます多様化している中で、個人の能
力・成果を正当に測定・評価することに努力を惜しまない企業や経営者こそが、未
来の発展を許されるといっても過言ではないだろう。


             (1998/12/28 人材開発メールニュース第20号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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