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人材開発を見直す視点
 これまで人材開発と言えば、個人に対する教育訓練が中心でした。しかし現在、
人材開発に求められているものは、経営戦略の推進や業績目標の達成に貢献するこ
とです。そのためには、個人に対する教育訓練プログラムだけでなく、組織として
人材開発がなされる土壌づくりが必要になっています。

 人材開発を見直す場合、現状の人材開発を2つの側面から捉えることが必要です。
 1.基盤形成アプローチ → 社員個々の能力基盤の形成をねらいとする
 2.戦略推進アプローチ → 戦略推進と業績達成への貢献をねらいとする

基盤形成アプローチとは、実践に向けて必要な知識・技能・意欲を身につけ、強化
することをねらいとし、スポーツで言えば、基礎トレーニングであり、体力づくり
や基本技術の習得を図るものです。戦略推進アプローチとは、事業方針の重点課題
をそのまま人材開発テーマに設定し、人材開発の中で課題解決を図ることをねらい
とし、いわば本番を想定した練習試合のようなものです。

 従来の人材開発は、階層別教育を中心とした前者の考え方が中心であり、基盤を
固めていけば、将来必ず役に立つという漠然的な考え方の下に、総花的に実施され
てきた傾向があります。そのことを、全面的に否定するわけではないですが、経営
環境が激しく変わる今日では、身につけた知識・技術が陳腐化するスピードも早く
なっています。また、機会均等の下に本来必要ない社員にまで実施することは合理
性を欠いていると言えます。
 基盤形成という考え方に立てば、その実行主体は組織でなく個人です。必要性を
自覚していない社員に、一律に教育機会を提供しても成果は期待できません。本人
の自己を向上させたいという想い、主体的な参加によってはじめて成果が確保され
るものです。基盤形成アプローチは、自己成長を願う個人をサポートするという視
点から設計される必要があると言えます。

 一方戦略推進アプローチは、現実の課題を人材開発の場に持ち込み、実践で成果
を上げることで人を育てるという考え方が基本です。中期の経営戦略から導き出さ
れた年度の事業方針や経営計画上の重点目標をそのまま人材開発テーマとし、その
テーマに最も該当する対象者を選定して、教育プログラムを実施していきます。例
えば、事業方針が「利益重視への体質転換」であれば、営業部門では「採算重視の
得意先、商品構成の見直し」、生産部門では「コストダウンと生産性向上」という
部門方針を人材開発のねらいとして、最も効果的な個別人材開発プログラムを設計
することになります。

 これからの人材開発は、経営理念やビジョンを反映した人材開発方針を基本コン
セプトに持ちながら、具体的な内容は事業戦略とリンクした戦略推進アプローチを
核とした上で、個々の主体的な能力開発の機会として基盤形成アプローチを補完す
るという考え方に基づき再構築されることが必要になります。


             (1998/11/02 人材開発メールニュース第12号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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