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教育効果の測定について(2)
 教育効果の測定をどのように行うかは、教育担当者の最大の関心事である。教育
効果は2つの視点に分けると整理しやすくなる。2つの視点とは、研修単位の視点
と人材開発の視点である。研修単位の視点は、前回紹介した通り、研修ごとに受講
者が研修内容をどれだけ身につけたか、習得したかということである。今回はもう
1つの視点である人材開発の視点について検討していきたい。

 人材開発の視点とは、人材開発施策を実施した結果、組織全体がどのように変わっ
たかということである。すなわち、研修やその後のフォロー活動を含め、人材開発
施策の前後で、組織としてどのような変化が生じたかを計測することである。
 具体的には、「組織能力の成長度」,「人材構成の実現状況」,「人材開発活動
全体」の3つの視点がある。

 組織能力の成長度とは、組織の仕事に対する能力の変化のことである。
 (例)a.生産性指標
        ・労働の生産性
        ・設備の生産性
        ・資金の生産性など
    b.効率性指標
        ・売上高に対する各種の経費比率
        ・人員に対する処理件数、納品比率など
        ・品質関連の指標、各種回転率など
    c.その他
        ・市場シェア、新規開拓数、事業規模
        ・特許取得件数、ヒット商品開発件数
        ・外部調査機関のランキングなど

 人材構成の実現状況とは、「職種別人材」、「階層別人材」、「専門人材」の質・
量の両面の変化のことである。この三つの人材構成は、組織のパワーを表す。
 (例)a.職種別人材
        ・養成過程修了者数
        ・資格取得者数
        ・多能工化の状況
    b.階層別人材
        ・新人、中途採用者の戦力化状況(どのくらいの期間で、費用で)
        ・実務担当者、リーダーの育成状況
        ・期待される管理者、経営幹部候補の育成状況
    c.専門人材
        ・戦略スタッフ(経営企画、法務、広報、財務など)
        ・テクノ人材(研究者、システムエンジニアなど)
        ・特殊な資格取得者、MBAなど

 人材開発活動全体とは、「人材開発体系」、「人材開発計画」、「人材開発関連
諸制度」などすべてを含めて、どう変化したかということを指す。すなわち、研修
を通じて人材開発に関係する組織が何を学んだか、それに基づき規則、規定など各
種ルールをどのように整理したかということである。
 (例)a.体系と計画
        ・人材開発体系や研修相互の関連性
        ・受講機会、費用のバランス
        ・人材開発諸制度(自己啓発、OJTなど)の連係など
    b.諸制度との関連
        ・人事諸制度との連係
        ・事業展開、経営方針との関連性
        ・小集団、TQC、経営改革運動との関連性など

 いずれにせよ、現在の人材開発を取り巻く環境の中では、研修単位の視点も勿論
重要であるが、今まで以上に人材開発の視点を重視した、教育効果の測定が求めら
れている。教育担当者は、経営戦略や人材開発戦略とのバランスを図りつつ、教育
効果の測定をどの視点で計るかという意志決定をしていかねばならない。そのため
に、必要なことは、仮説−検証を繰り返すことである。経営戦略から期待される人
材像を描き出し、その人材づくりの成長過程を確認する視点を仮説として組み、そ
の仮説を検証するための最善の施策を実施していかねばならない。そして、研修な
ど人材開発施策を実施していく中で、仮説が正しかったかどうかを検証していくこ
とが求められる。教育の効果測定に関する期待が高まる中で、教育担当者には仮説
形成力すなわち企画力、計画力が今後さらに求められる。

 ◆参考文献 平松陽一著『確実に人材を育てる企業内研修の進め方』かんき出版


             (1998/10/19 人材開発メールニュース第10号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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